031: Interior

Village Hinonhara
Co-working and
stay in the mountain

東京に残された最後の秘境に
新たな流域循環を生み出す滞在型ワーキングスペース

多摩川水系の源流部に位置する、東京都本土唯一の村「檜原村」は人口約2,000人の小さな村。都心から50km圏という立地にもかかわらず、昔ながらの生活文化や美しい緑の山々と清流が残されており、新しい働き方や生活様式の広がりを背景にテレワークやワーケーション、移住先として注目を集めている。増加する移住者やテレワーカーが共に働き、地域の人々と交流しながら新たな価値を生み出す場として生まれたのがVillage Hinoharaだ。檜原村が建物を設置し、一般社団法人アナドロマスが施設を借り受けて運営する、公設民営のプロジェクトになっている。

檜原村は山間地にあり平地が少ないため、通常の建物は山側を削って敷地を平らに造成する必要がある。しかしVillage Hinoharaでは、環境への影響を最小限に抑えるために、機能毎に分けられた3つの直方体が地形に沿って重なり合うように設計されている。最上層のワークスペースは川へ向かって大きなテラスが突き出し、三方向に設けられた開口部から周囲の山々の緑を内部空間に取り込むことで、室内にいながら豊かな自然を存分に感じられる。

檜原村産のサワラが全面に張られたファサード。ドアを開けると目の前にスギの大階段が現れ、冬場には頂上にある暖炉に火が灯される。気温が都心より5度ほど低く、エントランスホールのモルタルフロアは寒い印象を与えてしまうため、Ultrasuede®を壁面に使用することで空間に柔らかさと暖かさを与えている。

建築全体を支える門型のフレーム構造を活かして、柱間に棚板を渡して床から天井まで伸びる大きな陳列棚を設置。棚の上には地域情報やメンバーゆかりの作品などが陳列される予定。暖色系のUltrasuede®を使用することで、窓の外の緑もナチュラルに引き立てている。
建物の最下層に位置する、斜めの床が特徴的なフロアの奥は、最大10名が宿泊可能な滞在者用のベッドルームになっている。建物直下を流れる秋川の瀬音に包まれながら眠りにつくことができる。川に最も近いフロアになるため、外壁はガルバリウム鋼板で湿気を遮断し、内壁には透湿性に優れたUltrasuede®を使用することで湿度を低減。チープになりがちなバンクベッドルームもソフトで上質な印象に変わった。

都市の人々は自然に非日常を求めがちだが、自然との触れ合いを日常に取り込めると人生はもっと豊かになるのではないか? 東京都心から通える距離にある自然、その只中にできたVillage Hinoharaというコミュニティの一員になることで、日常的に山や川へアクセスできる拠点を持つことができ、村に暮らす住民や移住者たちと交流することで、自然との接し方や山暮らしの中で必要になるスキルを身につけることができる。

檜原村の地域活性化と、都市と山間地の間に新たな循環を生み出すモデルケースとなるVillage Hinohara。自然の中で養われる感性や思考は、都会暮らしの中にも新しい視点と景色を与え、日々の仕事にインスピレーションをもたらしてくれるだろう。


Creator

一般社団法人Anadromous / 清田直博

「Anadromous(アナドロマス)」とは、海で育ち川を遡って産卵する魚類のこと。川を遡るサケやアユのように下流部の都市から上流部の過疎地に遡る人々の受け皿を作り、関係人口の創出や地域活性化を目的に活動している。檜原村の情報発信、企業や人材の誘致を行っており、2022年に竣工した檜原村のサテライトオフィス施設を借り受け、「Village Hinohara」として新たな地域拠点とコミュニティづくりを行っている。
https://villagehinohara.tokyo

Mountain House Architects 山家明

1980年三重県生まれ。
高校卒業後、美容師として活動。
建築の魅力にとりつかれ、武蔵野美術大学に入学し建築家を目指す。
2010年~2013年トラフ建築設計事務所勤務。建築をはじめ、TVCMの舞台美術、家具、プロダクトなど様々なプロジェクトを担当。
2013年にmountain house architectsを設立。日常の気づきを大切に、生活に関わるあらゆるモノ・コトをデザインしている。

mountain house architects
www.mountainhouse.jp

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